実践の歩みと研修モデル
HISTORY
実践のあゆみ– 最初の出会い –
1998年、板垣は縁あって岩手県花巻市の精神薄弱者更生施設(当時)「ルンビニー苑」を訪れ、そこで知的な障害のある人たちと初めて対話し、同時にそこで暮らす何人かの方が描いた絵画に出会いました。その天衣無縫な美しさに衝撃を受け、入所者の造形活動の支援に関わり始めます。
多くの表現は作者それぞれの自室で、ありあわせの素材を使って、密やかに生まれていました。個人の自助努力によって営まれてきた創作に、必要な素材としかるべき場を提供したい。以後板垣は、非常勤職員やボランティア講師など立場を変えながら、施設内の創作活動の支援に取り組み始めました。
「そんなことより優先するべきことがあるのでは?」当初は批判的な空気も施設内にありました。取り組みの市民権を確立するため、画廊で展覧会を開催したり一般の美術展への出品もおこないました。これに対するメディアなどの評価が逆輸入されることで、施設の中に、作者のご家族に、そして外の社会に少しずつ変化が生まれました。
- 板垣の視点1「幸福であるために」– 見つめる・待つ –
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支援にあたって一番大切にしたこと。それは、その人の意思が十分見えるまで見つめること、待つことです。息を殺し、静かに見つめて待たなければ、支援の方向は見えて来ません。
板垣は「創作とはその人の存在表明である」ととらえます。他者から見て好ましいかどうかは問題ではなく、表現する人自身の納得の深さ、満足の深さこそが最も重要でした。すなわち、表現によって作者が幸福であり続けることを最も重視したのです。
- 板垣の視点2「妨げを取りのぞく」– 素材と環境からアプローチ –
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もしその人が十分納得して表現できていないとしたら、そこには必ず何か心の自然な表出を妨げているものがあります。何かが「ある」ことも、何かが「ない」ことも妨げになります。
もっと細かく描きたいのでは?もっと微妙な色調を描き出したいのでは?サインペンではなく極細ボールペンがあれば。12色ではなく36色の色鉛筆があれば。ひょっとしたら100色でも足りない?道具以外にも場所や時間、人、そして支援者の言葉や態度、価値観も影響します。
作者の感覚の鋭さや世界観は、支援者を超えていることが多くあります。その「超えていること」に気づける感度が大切です。作者と環境を先入観なく注意深く見つめ、妨げているものを取りのぞくことで、本当のその人の表現が実現されていきます。
このような支援の視点によって、板垣は岩手県内外の福祉施設や特別支援学校やその他さまざまな場で、知的な障害や精神の障害と共に生きる人たちの「自己信頼と存在表明」としての造形表現の支援にたずさわり続けています。
美術館での実践 - 表現がつなぐ「出会い」 –
やがてルンビニー苑の運営法人が、アトリエを併設した美術展示施設の構想を立案。板垣もこの計画に参画し、2007年「るんびにい美術館」の開館とともに、そのアートディレクターに就任しました。
これまでに同館の60以上の展覧会の企画にたずさわっていますが、その中には知的障害のある作者自身が展覧会のキュレーション(展示構成のプランニング)をおこなうという、前代未聞のチャレンジングな企画展もあります。それはとても独創的で感動的な展示として成功しました。
制作活動を公開するアトリエでは、日々幸福な出会いが生まれます。「すごいことやってるんだよ!」と言いながら、お母さんを案内して来てくれた保育園の子。アトリエを学校で紹介したいと、冬休みの自由研究で取材に来てくれた小学生の子。アトリエのメンバーも、自分の存在と表現を他者から喜びと敬意をもって見つめられ、生き生きと自信に満ちています。
この出会いを、アトリエやギャラリーだけでなく外の世界に届けたい。2016年からは、知的な障害のある人が講師として学校を訪れる出前授業「であい授業」も開始しました。これはアートの出前授業ではなく、一人の人の人生との出会いを届ける授業です。教育や福祉、芸術や行政など多様な分野の有志が参集してプロジェクトチームを結成し、この取り組みをモデル化、全国に広げることに挑戦中です。
INSTRUCTIVE MODEL
研修モデル– アート支援研修の基本構成 –
この研修によってお伝えしようとする支援技能は、どんな支援者にも開かれたものです。アートの専門性などの特殊な素養ではなく、相手に対する「注意深さと誠実さ」こそが、その柱となります。一人一人の花開くべきものが、しかるべく開く。そんな幸福な表現の場を実現するために、支援者が身に着けるべき「視点」「姿勢」「行動」を、体と頭と心をフル回転させながら学ぶ研修です。
上記の主要なメニューから、開催条件やニーズに合わせて構成します。数人から数十人規模まで、様々な形態で対応可能です。オンラインによる研修にも対応します。